○自然環境保全基本方針
昭和四十九年七月二日
徳島県告示第四百二十八号
徳島県自然環境保全条例(昭和四十七年徳島県条例第四十三号)第十六条第一項の規定に基づき、自然環境保全基本方針を次のとおり定めたので、同条第四項の規定により公表する。
第1章 自然環境の保全に関する基本構想
本県は,瀬戸内海,紀伊水道から太平洋に広がる海,剣山に代表される雄大な山々,これらに源を発する吉野川をはじめとする大小の河川等の豊かな自然に恵まれている。この自然は,我々県民の生産活動の基盤となり,あるいは快適な生活環境を提供し,また心豊かな県民性をはぐくみ,我々に限りない恩恵を与えてきた。
本県では,この貴重な資産を生かすべく,「徳島県新長期総合開発計画基本方針」を定めているが,そのねらいは,①豊かな県民生活と住みよい環境をつくる②自然と調和した近代産業の飛躍的な発展を進める③新しい魅力ある地域社会を建設するといつた点にある。そして,具体的計画として定めた第一次県勢振興計画においては「豊かで,住みよい,青少年に魅力のある郷土建設のために」をテーマに諸施策を推進している。
近来は,世界にたぐいまれな高度経済成長のうらで全国的な規模で豊かな自然が失われつつある。その影響は本県においても遺憾ながら免れえず,程度の若干の差はあつても環境破壊は逐年的にその度を加えている。
今後,本四架橋の完成,南阿波サンライン,国鉄阿佐東線の開通など交通ネツトワークの整備が進むにつれて,産業開発,観光開発の進行はますます活発になり,また大規模化することが予想される。これらの開発が無秩序に進行するのを放置すれば,本県に残された豊かな自然も蚕食され,単に快適な生活環境の悪化を招くのみならず,しだいに人間性の喪失をもたらし,ひいては人間生存の基盤に脅威を及ぼすことにもなりかねない。
自然改変が全国的規模で進行する中で,幸いにして本県はまだ比較的豊かな自然に恵まれている。今こそ,我々は,自然が有限であること,自然の支える限りない恩恵を享受していること,破壊された自然の復元は極めて困難であること,そして,自然は生きとし生けるものの母胎であり,微妙な法則の下に調和を保つていることなどを再認識し,豊かな自然を確保することこそ,我々が健康で文化的な生活を享受する上で必要不可欠なことであり,これを次代に継承することが我々の基本的責務であることを銘記しなければならない。
ここに,自然の保護に努め,その賢明な利用を図ることこそ正に県勢発展の基本的方向であることを確認し,徳島県の恵まれた豊かな自然を守ることを宣言するものである。
以上の観点に立ち,当面の自然環境保全施策の基本的方向を展望すれば,次のとおりである。
(1) 自然環境保全に関する調査研究を推進すること。
(2) 自然環境保全思想及び知識の普及を積極的に推進すること。
(3) 自然環境保全地域を指定するとともに,保全事業を実施すること。
(4) 身近な自然環境の保全を確保するために必要な保護,育成,復元等の保全対策を進めること。
(5) 各種開発については,計画段階,開発段階,開発後などの各段階において,計画の内容,規模等に応じて環境影響評価を行い,住民の理解の下に進めること。
第2章 自然環境の保全に関する施策に関する基本的事項
1 自然環境保全に関する調査研究の推進
自然環境保全施策を推進するには,その前提として自然の現況及びメカニズムのは握を行い,そのうえにたつて適正な判断をするものとする。
また,今後地域開発が予想される地域については,あらかじめ,地形,地質,植生,野生動物等に関する詳細な基礎調査を実施するものとする。
2 自然環境保全思想知識の普及
自然環境の保全を十分に図るためには,県民一人一人が自然に親しみ,これについての正しい理解をもとに保全の精神を実践に移すことが何よりも大切である。
このためには,学校教育や社会教育の場において積極的にこの問題を採り上げるとともに,環境緑化,環境美化をも含めて,広く自然環境保全に関する広報活動を実施するものとする。
更に,自然環境保全施策の推進を図るため,関係団体の育成を図り,また,地域住民の参加と協力を求めるものとする。
3 自然環境保全地域の指定及び保全事業の実施
(1) 自然環境保全地域の指定
郷土の豊かな自然を,現在の,あるいは更に将来予測される自然破壊から保護するためには,自然環境保全地域に指定して恒久的保全施策を講ずることが必要である。
なお,指定に当たつては,徳島県自然環境保全条例等に定める自然環境保全地域の指定手続に従い,当該地域に係る住民の農林漁業等の生業の安定及び福祉の向上並びに資源の長期的確保等自然的社会的諸条件を配慮するものとする。
① 人の活動による影響を受けやすい弱い自然で,破壊されると復元が困難な地域
② 自然環境の特徴が特異性,固有性又は希少性を有するもの
③ 当該地域の周辺において開発が進んでおり又は急激に進行するおそれがあるために,その影響を受け,優れた自然状態が損なわれるおそれのあるもの
(2) 自然環境保全地域の区分と措置
自然環境保全地域の保全対象である特定の自然環境を維持するため,自然環境の状況に応じ,次の区分に従つて適正な保全を図るものとする。
① 特別地区
当該地域の生態系構成上重要な地区及び生態系の育成を特に図ることを必要とする地区,あるいは特定の自然環境を維持するため特に必要がある地区等で,保全対象を保全するために必要不可欠な核となるものについては,その必要な限度において,特別地区に指定し,保護を図るものとする。
② 野生動植物保護地区
特別地区の中で特定の野生動植物で稀有なもの,又は固有なものを保存する必要がある地区について指定し,適切な保護措置を講ずるものとする。
③ 普通地区
普通地区については,それが有する緩衝地帯としての役割が十分維持されるよう適当な範囲において指定し,必要な保全措置を講ずるものとする。
(3) 自然公園法及び都市計画法による地域指定との調整
自然環境保全地域の指定は,自然公園の地域外において行うものとする。ただし,県立自然公園の区域に含まれている優れた自然の地域にあつては,当該地域の自然の特質,周辺の自然的社会的諸条件を考慮し,自然環境保全地域へ移行させることを検討するものとする。
また,都市計画区域においては,自然環境保全地域の指定は,原則として市街化区域においては行わないものとし,その他の区域については良好な都市環境の形成を目的とする緑地保全地区と重複しないようにする等の調整を図りつつ行うものとする。
(4) 保全事業の実施
① 指定地域内において自然環境に損傷が生じた場合には,当該自然環境の特性と損傷の状況に応じ,速やかに復元又は緑化を図るものとする。
② 指定地域が小面積である場合には,地域外と接する部分の取扱いに特に注意を払い,必要に応じて樹林帯等を造成し,保護を図るものとする。
③ 指定地域については,適正な管理を図り,必要な保全事業を実施するものとする。
4 身近な自然環境の保全
自然環境の保全は身近な自然の喪失からその問題が提起されたものである。潤いのある豊かな人間性を回復し,快適な生活環境を確保するため,関係方面の協力を得て市街地,集落地周辺の既存緑地の保存に努めるものとする。
更に,植樹,植栽,緑地の造成等を行い,積極的に自然の回復及び創造に努めるものとする。
特に,教育環境,労働環境などを含め,広く生活環境の保全を図るため,市町村等の協力を得て,公共施設,工場,事業場等におけるいわゆる環境緑化を計画的に実施するものとする。
5 各種開発についての環境影響評価並びに誘導及び規制
各種開発が計画され,実施される場合は,自然環境の保全についての十分な配慮が必要である。
まず,計画段階において,県土の土地利用計画との調整及び当該事業が自然環境に及ぼす影響の予測,代替案の比較等を開発事業者に行わせ,それが計画に反映され,住民の理解を得た上で,実施されるよう努めるものとする。また,開発行為の協議及び協定の締結等により自然環境の保全のための措置が確実に講じらるようにし,効果的な誘導と規制を行うこととする。
更に,開発段階及び開発後においても,その内容,規模等に応じて,繰り返し自然環境に及ぼす影響を調査し,対策が十分に図られるようにするものとする。
なお,行政主導型の開発にあたつては,自然環境の破壊をもたらすことのないよう特に厳重な環境影響評価,いわゆる環境アセスメントを計画の内容,規模等に応じて実施するものとする。
第3章 その他自然環境の保全に関する重要事項
1 自然公園法等による規制強化
(1) 国立公園及び国定公園における公園計画改訂の促進
瀬戸内海国立公園鳴門地区並びに室戸阿南海岸国定公園及び剣山国定公園は,その指定以来既に10年以上経過しているが,この間において,交通網の整備等により社会環境,自然環境の状況は著しく変ぼうしており,現行の公園区域及びその公園計画は必ずしも現況及び今後の変化に対応したものとはなつていない。
ここに,国における公園計画見直し作業の動向をふまえつつ,上記国立公園や国定公園に係る公園区域の見直し及び公園計画の改訂に必要な調査等を計画的に進めるものとする。
(2) 県立自然公園における公園計画策定の推進
徳島県立自然公園の区域は,本県の優れた自然の風景地を対象としており,保全すべき自然の重要部分を構成している。しかし,現在全域が普通地域であり,その保全が十分図られていないうらみがある。今後は,本県の総合的な土地利用計画を前提としつつ,特別地域の指定等規制強化を図るための保護計画を年次的に計画的に策定するものとする。
(3) 鳥獣保護事業の推進及び保護計画の改訂
野生鳥獣の適正な保護繁殖を図るため,鳥獣保護事業計画に基づき,鳥獣保護区の拡張及び規制の強化や鳥獣保護センターの設置等鳥獣保護施設の整備を推進するものとするほか,鳥獣保護に関する知識思想の普及徹底を図るため,関係資料の収集,広報資料の作成,鳥獣保護団体の育成等を積極的に進めるものとする。
また,これらの施策を一層推進するため,現行の鳥獣保護事業計画の早期改訂を図るものとする。
(4) 健全な野外レクリエーション対策の確立
自然との交流を図る健全な野外レクリエーションは,豊かな県民生活を営む上で重要性を占め,その需要も増大の傾向にある。県民の保健,休養及び教化を図るため,従来自然休養林,自然休養村等の整備や青少年野外活動センターの拡充を図つてきたが,今後も秩序ある自然活用型の利用計画を策定し,必要な施設の整備を計画的に進めるものとする。
2 管理の強化
保全すべき自然地域について適切な管理を行うため,既存の自然保護監視員制度を一層充実し,監視,指導及び情報収集体制を強化する一方,他法令等に基づき設けられた各種指導員,監視員,巡査員等の連絡調整を行い,これらの効果的な活用に努めるものとする。
また,自然環境保全上特に必要があると認められる地域については,借受け,買取り等の方法により有効な管理を行うものとする。
3 行政組織の拡充
自然環境保全に対する行政需要は急激に増大し,行政分野も自然環境保全法(同法に基づく条例を含む。),自然公園法(同法に基づく条例を含む。),鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律等に基づき極めて広範多岐にわたつている。これらの行政を円滑に実施するために,生物,地質,土壌等に関する専門技術者の導入や育成を図るなど行政需要に対応した実施体制の拡充を早急に図るものとする。
4 関係機関との連絡調整
都市の開発,企業の誘導等地域の開発及び整備その他の自然環境に影響を及ぼすと認められる施策の策定並びにその実施にあたつては,あらかじめ,国,市町村その他の関係機関との連絡調整を密にして,総合的な自然環境の保全に万全を期するものとする。
別表
地域の種別 | 基準面積 |
1 高山性植生又は亜高山性植生が相当部分を占める森林又は草原の区域(これと一体となつて自然環境を形成している土地の区域を含む。) | 50ヘクタール |
2 優れた天然林が相当部分を占める森林の区域(これと一体となつて自然環境を形成している土地の区域を含む。) | 5ヘクタール |
3 地形若しくは地質が特異であり,又は特異な自然の現象が生じている土地の区域及びこれと一体となつて自然環境を形成している土地の区域 | 1ヘクタール |
4 その区域内に生存する動植物を含む自然環境が優れた状態を維持している海岸,湖沼,湿原又は河川の区域 | 1ヘクタール |
5 植物の自生地,野生動物の生息地その他の土地の区域で,その区域における自然環境が前各号に掲げる区域における自然環境に相当する程度を維持しているもの | 1ヘクタール |