○徳島県手話言語条例

令和七年三月十八日

徳島県条例第二十号

徳島県手話言語条例をここに公布する。

徳島県手話言語条例

手及び指の動き、表情、体の動き等により意思を視覚的に表現する手話は、独自の文法を有する一つの言語であり、これを母語とするろう者の間で大切に守られ、培われ、そして発展してきた。

しかし、かつて、我が国においては、聴覚を活用し、発音及び発声の訓練を行う聴覚口話法がろう教育に導入され、ろう学校において手話の使用が禁止される等、手話を学び、自由に使用する権利が制限された時代があった。長年にわたり、手話は言語として認められることはなく、手話に対する偏見及び差別により、手話を母語とし、これを受け継いできたろう者の尊厳は著しく傷つけられてきたのである。

このような状況の中で、平成十八年十二月に国際連合総会で採択された障害者の権利に関する条約において、「言語」とは、「音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。」と定められるとともに、平成二十三年には我が国において、障害者基本法に「言語(手話を含む。)」との規定が設けられ、ようやく手話は言語であるとの認識が広がりを見せ始めた。しかしながら、ろう者が言語として手話を使用していること、そしてその手話を使用した意思疎通を手話通訳が支えていることに対する県民の理解は、いまだ十分であるとはいえず、こうした手話に対する県民の理解を深め、ろう者が言語としての手話を自由に使用して日常生活及び社会生活を営むことができるようにするためには、これまで以上に手話を使用しやすい環境の整備を進めていかなければならない。

聞こえる人が音声言語によってそうするように、ろう者は、手話によって物事を考え、相互に思いを伝え合うことで、豊かな人間性を育み、文化を創造する。

言語としての手話は、ろう者にとって、生き生きとした豊かな生活を送るために欠くことのできないものであり、正に命そのものである。

ここに、手話を言語として明確に位置付け、ろう者のみならず手話を必要とする誰もが、言語として手話を獲得し、手話で学び、手話を学び、手話を使い、手話を守ることができる環境を整備することにより、ろう者とろう者以外の者とが互いに理解し、尊重し合いながら安心して暮らすことのできる共生社会を実現するため、この条例を制定する。

(目的)

第一条 この条例は、手話が言語であるとの認識の下、手話に対する理解の促進及び手話の普及に関し、基本理念を定め、並びに県の責務並びに県民、事業者及びろう者等の役割を明らかにするとともに、手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する施策の基本となる事項を定めることにより、手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって手話を使用して意思疎通を行う権利が尊重され、ろう者とろう者以外の者とが互いに理解し、尊重し合いながら安心して暮らすことのできる共生社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 ろう者 聴覚に障がいのある者のうち、手話(触手話(手話を行っている者の手に触れることにより意思疎通を図る方法をいう。)を含む。以下同じ。)を使用して日常生活及び社会生活を営むものをいう。

 ろう者等 ろう者及び手話通訳者並びにこれらの者の団体をいう。

(基本理念)

第三条 手話に対する理解の促進及び手話の普及は、手話が独自の文法を有する一つの言語であるとの認識の下、ろう者とろう者以外の者とが互いに人格及び個性を尊重し合い、並びにろう者のみならず手話を必要とする者が社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に手話を使用して参画する機会が確保される共生社会の実現を旨として行われなければならない。

(県の責務)

第四条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、手話を必要とする者が手話を使用しやすい環境の整備を図るものとする。

2 県は、手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する施策の実施に当たっては、市町村その他の関係機関及び関係団体との連携を図るものとする。

(県民の役割)

第五条 県民は、基本理念にのっとり、手話に対する理解を深めるよう努めるものとする。

(事業者の役割)

第六条 事業者は、基本理念に配意してその事業活動を行うとともに、県が実施する手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する施策に協力するよう努めるものとする。

(ろう者等の役割)

第七条 ろう者等は、基本理念に対する県民の理解を増進するため、言語としての手話に関する普及啓発を行うよう努めるものとする。

(徳島県障がい者施策基本計画)

第八条 県は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)第十一条第二項の規定に基づく徳島県障がい者施策基本計画において、手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する施策について定めるものとする。

(手話を学ぶ機会の確保)

第九条 県は、県民の手話を学ぶ機会の確保を図るため、市町村、ろう者等その他の関係者と連携して必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

2 県は、県の職員に対し、手話を学ぶ機会を確保するものとする。

(学校における手話の普及)

第十条 県は、ろう者である幼児、児童、生徒又は学生(以下「ろう児等」という。)が手話で学び、及び手話を学ぶことができるよう、ろう児等が通学する学校の教職員が手話に関する知識及び技能を向上させるために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

2 県は、ろう児等、その保護者等に対する手話を学ぶ機会の提供、教育に関する相談体制の整備その他のろう児等が学校生活を送る上で必要となる手話に関する支援のために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。

3 県は、学校における手話の普及に関する取組を促進するため、学校に対し、学校教育において利用することができる手話に関する資料の提供その他の必要な支援を行うものとする。

(事業者への支援)

第十一条 県は、事業者による手話の使用に配慮したサービスの提供及び手話を使用しやすい職場環境の整備に関する取組を促進するため、これらの取組を行う事業者に対し、情報の提供、助言その他の必要な支援を行うものとする。

(調査研究への協力)

第十二条 県は、ろう者等が手話の発展に資するために行う手話に関する調査研究の推進及びその成果の普及に協力するものとする。

(財政上の措置)

第十三条 県は、手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

この条例は、公布の日から施行する。

徳島県手話言語条例

令和7年3月18日 条例第20号

(令和7年3月18日施行)